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『連載終了!少年ジャンプ黄金期の舞台裏』荒木飛呂彦になれなかった漢!!

巻来功士『連載終了!少年ジャンプ黄金期の舞台裏』という描きおろし漫画がとてつもなく面白い。昨今人気の、漫画家自伝漫画のひとつではあるが、80年代ジャンプを読んでいた世代には強烈にオススメできる。それ以外の漫画家とか目指している人なんかにもオススメ。

連載終了!

連載終了!

 

 

 

さて、巻来功士を知ってる人はどれくらいいるだろうか。僕と同じくらいの世代で、『北斗の拳』とか『シティーハンター』とか『キャプテン翼』なんかが載っていた頃のジャンプを読んでいた人らはたいてい知ってると思う。それ以外の世代の漫画ファンには、それほど知名度は無いかもしれない。そんな漫画家だ。

 

巻来功士の作品というとなんといっても『メタルK』と『ゴッドサイダー』だ。このタイトルをあげると「おおおお知ってる!!!」となる人も格段に増えると思う。僕らの世代でジャンプを読んでいた人たちには強烈なインパクトを与えた作品だ。この2作品は、それまでのジャンプ漫画にあるまじきエログロホラーアクション漫画で、当時のジャンプ読者の子供たちをグイグイ引き寄せるものがあった。

メタルK

メタルK

 

 

ジョジョで有名になる荒木飛呂彦が、『魔少年ビーティー』とか、『バオー来訪者』で、ジャンプ読者に深い印象を残していたのもその少し前あたりだった。ちょっとグロい系の漫画が、ジャンプにちらほらと登場し始めた頃だった。そもそも『北斗の拳』だってかなりグロい系アクションで子どもたちの度肝を抜いたわけだし。

 

魔少年ビーティー (少年ジャンプコミックス)

魔少年ビーティー (少年ジャンプコミックス)

 

 

バオー来訪者 1 (ジャンプコミックス)

バオー来訪者 1 (ジャンプコミックス)

 

 

だが現実は非情なもので『メタルK』は10回で打ち切り。『ゴッドサイダー』はそれなりの長期連載になったものの全8巻で終わってしまった。今の感覚からするとものすごく短命だった。当時は今ほど超長期連載が当たり前ではなかったとはいえ、『北斗の拳』が全27巻、『キャプテン翼』が全37巻まで続いていたのである。それからしてもやはり大ヒットというには今ひとつ及ばずというのが理解していただけると思う。

 

とはいえ、荒木飛呂彦の『魔少年ビーティー』だって10回打ち切り。次の『バオー来訪者』だって全2巻で終わってしまったのだ。いくら読者の心に残る作品を描いたとしても、人気と結びつくというのがなんと難しいことか。人気漫画になるためには本人の努力だけではいかんともしがたい。まさに「天の時、地の利、人の和」の世界なのである。しかし荒木飛呂彦はその後『ジョジョの奇妙な冒険』の連載を始める。それも巻来功士の最大のヒット作『ゴッドサイダー』が始まる前年に。

 

その後のジョジョがどうなったかは説明するまでもないと思う。ジョジョは掲載誌をウルトラジャンプに変えたとはいえ、いまだに現役連載中で、単行本はゆうに100巻を超え、ゲームやTVアニメにもなってますます知名度をあげ続けている。いまや荒木飛呂彦は日本を代表するカリスマ漫画家の扱いである。

 

方や、巻来功士。ジャンプで8巻で打ち切りになった『ゴッドサイダー』を超える知名度の作品はいまだにモノにしていない。ある特定の年齢のジャンプ世代だけに妙に通じるという、知る人ぞ知る漫画家になってしまった。そして最近までもゴッドサイダーのリメイクのマンガを描いたりしている…。だからいまでも「ゴッドサイダー巻来功士」と呼ばれ続けるわけだけど、「ジョジョ荒木飛呂彦」に比べるとネガティブな表現になってしまうのは否めない…。

 

当時おんなじくらいインパクトを残したのに。ジョジョゴッドサイダー、どうしてここまで差がついた。

 

信じてもらえないかもしれないけど、『ゴッドサイダー』の途中までは、ジョジョをも超える話題性もあったのだ。当時読んでいたものとしての感想を言わせてもらうなら、漫画家としての才能だって別にそんな負けていたわけでもないと思う。なんだかんだいって巻来功士はその後も漫画家を続けているし。スーパージャンプに移籍してからの『ミキストリ』は長期連載漫画になってそれなりに人気だったし。

 

たまたま両者が同じ時季にホラーをテーマにした作品を描いていたから。

 

編集長の「ジャンプにホラーは2ついらない」という方針から、どっちかが死ぬしか無かったという裏事情もあるらしい。ジョジョだって「最初のジョナサンの青春話がかったるい」と言われて、打ち切りになる可能性があったと荒木飛呂彦も振り返っている。そうなってたら荒木飛呂彦が地味な漫画家になっていて、『ゴッドサイダー』が全100巻を超える連載になって巻来功士がカリスマ化しているパラレルワールドが立ち上がってくるのか。いやいや、そんなのは極端かもしれない。でも、いくらなんでも8巻で終わりってことだけは無かったはず。

 

現実は、ジョジョは生き残り、ゴッドサイダーは死んだ。それについては、担当編集者が相当に荒木飛呂彦をかばって「ジョジョはこれから絶対に面白くなるから!」と、無理にでも連載を続けさせたというちょっとイイ話が残っている。ジョジョの今あるのは担当編集者の「ちょっとイイ話」のおかげ!

 

ではその「ちょっとイイ話」が無かったとしたら?

 

むしろ、「ちょっと悪い話」なんかもあったりして……。

 

そういう何だかんだを語りまくっているのが『連載終了!少年ジャンプ黄金期の舞台裏』という自伝マンガである。

 

なんで巻来功士荒木飛呂彦になれなかったのか?

 

この自伝を読んで、僕は長年の疑問が氷解した。この一冊のなかに漫画家としての巻来功士が赤裸々に描かれている。気になっている人は読んで欲しい。

 

『キャッツアイ』や『シティーハンター』で一生を風靡した北条司と同じ九州の大学にいたというのも初めて知った(会話もしたこと無かったそうだが)。そして北斗の拳原哲夫のところにアシスタントに行く話も出てくる。なんと、あの『北斗の拳』の伝説ともいえる第一話と第二話を手伝うのだ(魂を削って原稿に取り組む天才美青年漫画家としての原哲夫が出てくるので必見)。

 

そしてジャンプの新年会での、荒木飛呂彦との邂逅……。

 

荒木飛呂彦巻来功士が会話をしたのはその時が最初で最後だそうだ。そんなものなのかもしれない。

 

漫画は、巻来功士少年漫画家としての挫折と、青年漫画家としての再起までを描く。

 

僕が当時のジャンプに思い入れがある世代とはいえ、最初のページから最後まで一気呵成に読んでしまった。担当編集者に恵まれなかったなんて一言で片付けようと思えばできるのだけど、それだけでは済まされない運命の巡り合わせを感じる。これを読んだら、「荒木飛呂彦に比べて才能が無かったね」とか、「言い訳がましいね」とか、とてもじゃないけど言えないのではないか。

 

『連載終了!』は、五里霧中でもがき、孤独に戦い、そして見事に散っていった一人の漫画家の話だ。そして再生の話でもある。

 

あとがきまで読ませる。巻来功士の持ち込み原稿をみて、最初にジャンプでの担当になった経緯のある堀江信彦との対談だ。堀江信彦は『北斗の拳』の担当編集者として特に有名な人物。そしてこの対談で、「なんで君はアカンかったのか」が、時を経て明かされちゃったりする。いわば本編の完全な補足になっている。本人も「そうだったのか!」と妙に納得。その上で堀江は、現代の巻来功士に、でかい仕事の話を持ちかけたりするのだから余計にドキドキする。

 

この本は、あとがきまでセットで一冊といえる。「ヒット漫画は20ページ100コマ!」など、まんがを描いている人にもすごく為になる情報満載だ。

 

それにしても、描きおろし単行本で、これだけ読ませる作品を描ける巻来功士は、やっぱりまちがいなく才能がある。本人も、短編小説や映画が好きだから、そういうマンガを描きたかったといっている。日本マンガ界の週刊連載作品一辺倒の体制には、いまいち乗りきれなかった才能なのだと思う。

 

吾妻ひでおの『失踪日記』がベストセラーになったように、描きおろし単行本マンガの需要というのは確実にある。従来までのように、連載作品だけを重視する体制では、この手の漫画を描ける才能を取りこぼすことになるのでは無いだろか。従来までは、描きおろし漫画の書き手は、主に学習系のマンガなどの仕事しか無かった。あとはエロ系。実に勿体無いことだ。

 

最近では、描きおろし形式のマンガも、市民権を得つつある。もうちょっと盛んになってくれれば嬉しい。そういう意味でも『連載終了!』の刊行は喜ばしいことであったし、描きおろし漫画好きとしては強くプッシュしていきたい。

 

 

失踪日記2 アル中病棟

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