アサヒスーパードライを躊躇なく飲むようになって何年経つだろう。
グルメ漫画『美味しんぼ』ファンのうちの常識では「ドライビールは舌にスプーンを押し付けて離した時のような味がする」として「まがい物のビールの代表」みたいな扱われ方だった。
漫画の中ではユウヒビールのドライということになっていたが、モデルになっているのはアサヒのスーパードライであることは明白だ。
100巻以上続いたマンガの18巻めに収録されている話だから随分と昔の話である。世が「ドライブーム」なんていっていたバブル時代。
作中では「こんなビールが定着してビールの主流となったら大変」と結論付けられていた。それから二十年以上を経て、ドライビールブームというのは完全に無くなったけれど、あいかわらずアサヒスーパードライはビールの販売数でいったらトップの存在であり続けている。
日本のビールの代表的なブランドであることは間違いない。
昔は僕もスーパードライに対しては美味しんぼの山岡と同じ立場をとっていた。こんなまずいビールがあったものかと。日本のビールはいろいろあれど、スーパードライほどまずいものは無いと。
だから「スプーンを舌にくっつけて離した時の味」と山岡さんが説明するのも納得。たしかにスーパードライの刺激だけで酸っぱい味を表現するのならば的確だ。当時はそう思っていた。
ビールを飲む機会にスーパードライを回避出来るならありとあらゆる手を使ったし、スーパードライしか飲めない居酒屋では別のアルコールを注文するほどだった。
ところがどうだ。
関西の立ち飲み屋なんかで多いパターン。瓶ビールを注文すると「キリンにしますか?アサヒにしますか?」ってやつだ。
昔の僕ならば躊躇なくキリンビールだ。たいていはキリンラガーが出てくるがたまに一番搾り。アサヒの場合は言わずもがなスーパードライ。アサヒで他の瓶ビールが出てくることはまずない。アサヒ黒生がある場合は黒ビールという別メニューになっている。
しかし、今の僕はその時のノリでキリンにしたりアサヒスーパードライにしたりまちまちだ。どっちかというと面倒なのでスーパードライの方が多い。7:3くらいでスーパードライを選んでいる。
そしてコンビニやスーパーでビールを買うケース。
日本のメーカーだったら、僕はサッポロビールがダントツで好きなので、出来るなら黒ラベルといきたいところだけど、あいにく関西では販路が少ないので置いていないコンビニやスーパーもたまにある。そうした場合、なんとなくスーパードライを手にとっている自分がいる。
わざわざスーパードライを選んでいる自分!
いつの間にスーパードライファンになったのか。あれほど忌み嫌っていたスーパードライを選んで買う人間になっていた。
この前も、コンビニで買ったスーパードライを飲みながら、ふと硬直してしまった。なんでだ!!!なんでわざわざこれを選んでいたんだ!!!(ちなみに、関西のスーパーだと、ビール類の中では、スーパードライがいちばん安かったりするケースも多い)
そういえば第三のビールといわれるリキュール(発泡性)(1)の中でいちばん好きなのはサッポロのホワイトベルグだったりするけど、クリアアサヒも相当に好きだ。ふとするとクリアアサヒばっかり飲んでいたりもする。
クリアアサヒはいってみればスーパードライの弟分。こういってしまってはなんだけど、クリアアサヒは劣化スーパードライみたいなもん。良く言えばスーパードライをさらにドライにしたような飲み物がクリアアサヒなのだ。
若い時は「スプーンを舌に押し付けて離したような味!」と思っていたものが、今ではわりあいと好きになってしまっているのはなんでか。
スーパードライってのは、子供にはわからない味だったのか。おっさんになってはじめて良さがわかるものなのか。
それとも美味しんぼの作中にあったように「しっかりとしたボディのある酒の味を楽しむ体力がなくなっているんだよ」ということか。疲弊した身体には薄味がイイということか。
いやいやそんなことはない。だって今でも一番に好きなのはサッポロビールだ。黒ラベルも、赤星も好きだ。サッポロクラシックも好きだ。エビスビールだって昔ほど信者ではないにしろたまに飲むとウマイと思う。その他の外国のブランドのビールだっていろいろ飲む。黒ビールも美味い。薄いってんならバドワイザーなんて、スーパードライなんて目じゃないくらい薄い気がする。他にも東南アジア系のビールかて薄いではないか。
今はスーパードライは悪く無いと思っている。スーパードライも選択肢のひとつとして間違いなく存在している。なぜか。
はっきり言おう。
昔のスーパードライは本気で不味かった。
「舌にスプーンを押し付けて離した味」
90年代のスーパードライを言い表すにはこれほど適切な表現は無かった。
でもその後に発泡酒なるジャンルが登場するにつれてスーパードライは底辺のビールじゃなくなった。
スーパードライが美味くなったというより、もっと薄っぺらい味のビールが次々と僕の目の前に現れた。
そうこうしているうちになんかの技術改革かレシピの変更か知らんけど、確実にスーパードライは美味くなっていったと思われる。昔みたいな臭みが無くなったもの。
良くも悪くも癖のない味として完成してきたのだ。
だからキンキンに冷えてると問題なく美味い。喉が乾いている時に冷えたスーパードライを一気に流しこむのはありなのだ。十分に美味い。
昔からの日本ビールはドイツビールを手本にしているという。スーパードライが批判された理由のうえでもっとも大きいのは「本来のビールの味がしない」という点だった。つまりサッポロ赤星なんかはドイツビールに近い味といえる。エビスビールなんかもそうなのだ。そしてそれの逆に位置するスーパードライなんかは、つまり、ドイツビールぽくはないという説明で良いわけだ。
スーパードライこそが日本のオリジナルビールのひとつの到達点!?
何度もいうけど選べるならサッポロビールにする。でも選べないならスーパードライを飲むことも多い。サッポロビールが選べない店で、ハイネケンとかオリオンビールが選べるということはほとんどないからだ。(全くないということもないけれど)
悔しいのは、ここに昔のスーパードライを持ってきて、今のスーパードライと飲み比べというのが出来ないこと。本当に当時のスーパードライを保存していたら、きっと恐ろしいことになっているに違いないけれど。
そやから提案する。
昔の僕みたいに「スーパードライなんてまずいビールは飲めないよ!スプーンの味がするもの!飲んでない!」って人がいたら、ちょっと試しに今の完成された味のスーパードライを飲んでいただきたい。先入観なしに。
ひょっとしたら僕みたいに「あれ?スーパードライも悪く無いやん」と思う人もいるのではないか。
いや、アサヒから何かもらっているなんていうことは決して無い。
部屋には山積みになったクリアアサヒのケースが……
なんてこともない!
スーパードライの提灯記事を書いた報酬がクリアアサヒというのは面白いネタだけど……。
ちなみに、現在の僕が、最も苦手な日本のビールが何かというと、プレミアムモルツだったりする。
居酒屋で出てくるプレミアムモルツの生ビール。
安い居酒屋だと200円以下で提供している店もある。500~600円とるとこもあるけど。
あれ、なんであんなに美味しくないんだろうか。おかげでプレミアムモルツというビールがとんでもなく苦手になった。だから缶のやつも瓶のやつも絶対に買わなくなったので、元から全部美味しくないのか何のかわからなくなってしまった。
そして、プレミアムモルツしか無い飲食店(なぜか、それなりに存在している)では、なんとかそれを回避する手段をとっている。
諦めて飲んでることもあるけれども……。
ここまで書いていて、これ、似たようなことを、前にも書いたなと思いだしてしまった。なんてことだ。