来る日も来る日も、「良い居酒屋とは何ぞや?」と自問自答しつつ、暇を見つけては日本中を探索しまくっている酒場客のプロである僕が、良い店の判断の仕方をみなさんに教えようと思う。
良い居酒屋の条件は簡単だ。単純明快。たったひとつのルールで決まる。
つきだし料、席料、お通し、テーブルチャージ。そういうものが一切無い店だ。
たとえばある店で、生ビールが400円だとしよう。そしてポテトサラダが300円としよう。生ビールを飲んでポテトサラダをつまむ。そして店を出る。
お会計が1000円也……。どういうことだ!?なにが起こった!?時間でも止められたのか!?
いやいや、落ち着いて欲しい。これが計算間違いとか、伝票を取り違えたとかで無い限り、理由はたった一つしかない。つまり、注文したもの以外に、つきだし料ってやつが300円プラスされていたのだ。
そういえば、生ビールを注文したときに、なんだか妙な小鉢がついていたような…と思い当たるフシがある。たいしておいしくも無かったけれど、サービスか何かと思ってパクパク食べてたけど、あれ、しっかりお金を請求されていたのですな。
僕はもう二十年やそこら、居酒屋やバーや立ち飲み屋なんかでお酒を飲んできたが、あのつきだしシステムだけは未だに我慢が出来ない。なんで注文したもの以外のものが強制的に出てきて、謎の料金が税金みたいに上乗せされるのだ。この不可解な因習のせいで、居酒屋とかバーというやつが、安心して飲み食い出来ない空間になっていた。
お酒関係で、初めて入る店が、なんだか怖い感じに思えるのは、それが大きいんじゃないか。これだけいろいろの店に行くようになっている僕だけど、はじめて入ったお店で会計するときにはちょっぴり緊張がある。
長年の経験から、テーブルチャージがつくかつかないかは予想つくのだけど、それでも余計なお金をつけられると「ああやっぱり」とか思うし、意外に注文した値段だけだったりすると「ほっと」したりもする。
たかだか数百円なんだからいいやんか、と言われるかもしれない。でも本当にいいのか?
たとえば喫茶店で500円のコーヒー飲んで出ようと思ったら、700円を請求されたらどうします?600円のお好み焼きを食べたら900円請求されたりしたら?
普通はありえないことだけど、お酒を飲む店では普通にありえることなのである。しかも、500円とか600円とかではなくて、数千円ぶんも飲み食いすることだって普通にある居酒屋なのに、さらに余計にとられるって、一体どういう理屈なんだろうか。
ショットバーなんか行こうものなら、ちょっとピーナッツかじっただけで700円とか上乗せられる。しかもそんな店ではお酒だって一杯700円とか1000円とか普通にするのに。下手したらテーブルチャージとして、数千円もとられる店だってある。ただ、その店に居たというだけで…。
そういう店の特徴としては、外に出ているメニューや看板などには、テーブルチャージとかつきだし料についての表示が無いのが常だ。だから騙し討ちみたいな形で徴収されるわけだけど、そのときに慌てず騒がず「あ、そんなもんか」という顔して、さらりと支払えるのが大人の客とされる。決して「ビール一本でなんぼやねん!どういう計算やねん!」などと騒いではいけない。
だから僕も「あ、2700円ね」なんて、大人の顔してさらりと払ってきたわけだけど、計算の合わないお店に対しては、腸が煮えくり返っていたというのが本音だ。つきだし料とかテーブルチャージといったものをとる店で、これはと思える店というのは、20年くらいの経験の中で数えるほどしか巡りあったことがない。
よっぽど居心地の良い空間を提供されるとか、よほど凝ったつきだしを出してくれるとかでしか、数百円の強制徴収の埋め合わせは出来ないのではないか。選択肢があまりないような土地だったら、最終的な支払いが「それなり」なのを知っていたら、「まあ、分かってて行ってるし、しゃあない…」みたいな。
極稀に、つきだしだけで、酒の肴が完結してるような店もある。押し付けがましく出てくる小鉢とかピーナッツなんかいうのじゃなくて、それだけで自動的に酒を何杯か楽しんで、追加の料理なんてほぼ必要がないというような。あれこれ口出ししなくても、ひとしきり楽しんで、二千円だの三千円だの払って帰るというような。これはこれで大人な空間という気はする。
しかし、こんなのは本当に稀な話で、酒を飲んだ客への税金のように、単に人数分のつきだし料を徴収したいだけの店がほとんどだ。
つきだし料をとると、それがたとえ300円でも、客単価の底上げになるから良いってのはわかるんだけど、それなら飲食の値段に最初から盛り込んで勝負して欲しい。
ビールが500円の店で、ビール三杯飲んだら1500円だ。
ビールが400円で、つきだし料が300円の店で、三杯飲んでも1500円だろう。
後者の店で四杯目を飲めば1900円で、ビールが500円の店なら2000円だ。逆転する。
しかしそんな問題じゃない。
ビールが500円の店ならばビールを一杯飲んで、500円だけ払って帰る自由があるのだ。
つきだしを取られる店なら800円払って帰る以外の選択は無い。
つきだしの無い店では、ビールを3杯飲んで出ても1500円。3日にわけで飲んでも1500円。
300円のつきだしのある店で400円のビールを1杯づつ3日間飲んだらどうなるか。おそろしいことに2400円。
つきだしの店には自由なんてない。3杯は飲んで帰らないと損してしまう。
あと、大勢で飲んだ時の、割り勘にも大いに影響するのがつきだしというやつだ。だから宴会の多い居酒屋チェーンなんか、積極的につきだしシステムを採用している。頭数が増えれば増えるほどに美味しいから。最近は不景気で、つきだしシステムを採用しなくなってきた居酒屋チェーンも多いけれど。不景気は嫌だが、それについては喜ばしいことではあるかもしれない。
あと、大手居酒屋チェーンのなかには「つきだしは要らないです」というと、つきだし料金をカットしてくれるところがあるけれど、そういうことはメニューの端に小さく書いているだけだったりする。何もいわなければ強制的に出てくるわけで、やはり騙し討ちでしかない。「もっと正々堂々と商売できんのか!?」と思ってしまう。
繰り返していうが、食べたくもない小鉢に300円取られるなんて、バカにかかる税金以外の何者でもない。
しかし、ちょっとした小鉢とか、お菓子とか、出してくれて、つきだし料なんか一切とらないというような神様みたいな店も世の中にはあるから油断できない。こういう店にあたると、店主の心意気というか、情というか、ちょっとほだされてしまいそうになる。
それどころか、大瓶ビールを300円で提供しつつ、おつまみのお菓子をいちいちくれるという奇跡のような立ち飲み屋も世の中には存在していたのだ。どこのスーパーを探しても、大瓶ビール300円で売っているとこなんて無いはずだ。あまつさえ、大瓶ビールを注文するたびに、柿ピーの小袋を2つくれていた。
どんな福祉事業!?
その店がどうなかったかというと、一年前くらいに閉店してしまった。けっきょく全体で2年くらいしか営業してなかった。そらそうか。
上のような例はやり過ぎかもしれないが、とにかく、良い居酒屋の条件とは、「つきだし料をとられない」ということにつきる。
なので、いちどそういう観点から、居酒屋を評価してみることをオススメする。
少々メニューの値段が高くても、騙し討ちみたいなつきだし料をとってない店というのは、やはりそれだけ信用できるところが多いもんだ。
それにしたって、つきだしとかお通しみたいな、飲食店の古い因習にはもやもやする。一見、安い看板で釣っておいて……というのが、あらゆる商売でまかり通っていないだろうか。なんなんだろうか、このアンフェアさは。
ワタミグループの店と、酔虎伝、八剣伝などのマルシェグループは、「お通しカット」という呪文を使えば、お通しをカット出来ると公式にあるので、どんどん使っていこう。日本から騙し討ちの風習がなくなることを切に願っている。外国人観光客からの受けも悪い!