秋の乗り放題パスで移動した軌跡を、ちょっと綴ってみようと思う。
大阪を早朝に出発し金沢方面を目指して、最初に降りたのは小松駅だった。JR北陸本線の小松駅で降りたのは初めてだった。
小松駅を大雑把に解説すると、福井県の福井駅と、石川県の金沢駅の中間くらいにある駅だ。小松駅自体は石川県内であって小松市になる。小松駅は石川県内で初めての鉄道駅という歴史があるらしいが、そういうのは全く知らなかったし、今現在はだからといった面影も無い。金沢に次いでの石川県のメインとなる市にある駅ということくらいだろうか。もっとも、今では人口的には県内三位だそうだ。
ホームを降りると駅構内に色々とアピールがあった。敦賀駅でも福井駅でも金沢駅でもアピールが激しめなのでその延長だろう。恐竜推しなんて完全に福井と被っている。この辺で化石が出たのだからしょうがない。
由利公正を大河ドラマにというアピールも凄い。けっこうあちこちでいろんな人物を大河ドラマにしろという要請を見る。戦国時代の些細な武将とか。戦国時代の武将だったら誰を出そうが、結局は信長秀吉家康の話みたいになるんで代わり映えしないのが良いところなのだろう。それに対して由利公正は幕末から明治にかけて政治に辣腕を振るったという地味な人物。坂本龍馬と仲良かったという点が最大の見せ場だろうか。
他にも義経と弁慶の勧進帳(かんじんちょう)のエピソードの舞台が小松だったのも初めて知った。小松駅に降りても、たいしてなんにもないだろうとか高をくくっていた僕に、小松市の見どころの多さや偉大さを一瞬で知らしめたわけだ。こういう立て看板は大切なもんである。
あとで知ったが重機で有名なあのコマツも小松市の会社だから、ここは企業城下町なんだそうだ。何も知らずによく来たものだと自分で感心する。
じゃあ、何のために小松駅に来たのかというと、金沢カレーを食べたくて降りただけだったりする。小松駅前に金沢カレーの有名チェーンのひとつである「カレーの市民アルバ」の本店があるというのを調べていたのだ。そういうのがあるという情報だけで、今まで通り過ぎる駅のひとつにしか過ぎなかった小松駅が、だんぜん光り輝いてくるからたいしたもんだ。
小松駅前はなんてことない地方都市という趣だった。田舎すぎもせず都会すぎもせずといったところ。福井や金沢や富山駅前なんかに比べると大人しいものだ。それにしても10月の北陸というには暑い日だった。こちらは半袖で草履である。北陸旅行に行くというのに真夏と同じ格好というのはさすがにどうなのと思わんでもなかったが、はっきりいって大正解だった。秋だからって暑かったら真夏の格好でも良いのだ。流されてはいけない。日差しの強い中を歩いていたら汗すら出てくる。コートとか着ている人もいるが大丈夫かと。
さっそく駅にカレーの市民アルバの店舗を発見してしまう。カレーの市民アルバの街に来た実感がする。にわかに盛り上がってきた。ここで白状すると、僕はカレーの市民アルバのカレーを食べたことが無かったりする。カレーのチャンピオンや、ゴーゴーカレーは食べたことあるけれど、カレーの市民アルバのカレーのははレトルトで食べたことしか無いのだ。だからもうここで食べてもええやん、かわらんやんと、一瞬心が動きかけたりしたがグッと堪えて本店に向かう。
なんだかよくわからない駅前のビルを見つつ歩く。一階が弁当屋と居酒屋で、ラウンジっぽい看板が見えるが正直まったくわからないビルだ。なんで人はわからないようなビルを建ててしまうのか。
ロータリーから道に入っていって、アパホテルに囲まれた地域にカレーの市民アルバ本店はあった。金沢がアパホテルの街なのは知っていたが、小松もアパホテルの会長の出身地だったりする。だから小松もアパホテルの街と言って良いのだろう。とにかく茶色い建物のアパホテル金沢グランドというのの向いがカレーの市民アルバ本店だ。
カレーの市民アルバの本店は家感たっぷりの建物だった。中に入ってもやっぱりアットホーム。近所の人がランチに利用する気安い店だ。いかにも地元の店といった雰囲気が気分を盛り上げる。ついにあの本店に来てしまったんやなと。ぜんぜん他の店に行った事もないくせに。
カウンターの端っこに座る。まだ12時になってないということでお客さんは数人。お水を出されたが、水のコップが珍しいたっぷり容量のもので気持ちいい。カレーといえば水なので、ここは強いこだわりなんだろうか。普通サイズのコップであってもピッチャーを置いてくれていればガフガフ飲めるので変わらないはずなのに、たっぷり容量のコップだと安心感が違う。カレー以前にもうこの店が好きになってしまっていた。
さて、金沢カレーといえば、トッピングに揚げ物やウインナーを載せるのが超大事という印象がある。今まで利用したことのあったゴーゴーカレーとかカレーのチャンピオンがやたらカツとかフライとかウインナーを推していたから。だからカレーの市民アルバでもきっとそうに違いないと思っていたら、やっぱりそうで「満塁ホームランカレー」という、全部乗せみたいなメニューがあった。折角なのでそれにする。オールスター的スペシャルな内容で950円というのは案外安いかも。
ゴーゴーカレーにしても、カレーの市民アルバにしても、メニューに野球ぽいネーミングがついてるのは、石川県出身の松井秀喜選手にあやかってのことだったりする。とくにカレーの市民アルバは松井選手が高校時代にかよっていたカレー屋として有名だそうだ。それは本店ではなくて別の店舗らしいけれど。だいたい、ゴーゴーカレーは金沢カレーといっても、新宿からスタートした店だから、松井の背番号を名乗るゴーゴー(55)という店名にしたのも含めて、カレーの市民アルバをモデルにしたコンセプトのチェーンということで良いのかも。
満塁ホームランカレーが登場する。金沢カレーの特徴としてはステンレス皿にキャベツ。ドロドロカレー。そしてフォークや先割れスプーンでいただく。カレーの市民アルバは先割れスプーンだった。
大盛りカレーでトッピング全部乗せというわりには巨大には見えないが、見えないだけで実際はご飯もルーもたっぷり。そしてトンカツ、ハンバーグ、ウインナー2本、クリームコロッケ2個がしっかり搭載されている。子供の好きなもんだらけ。大人だって好きだ。
ルーに埋もれてよくわからなんので、お皿をくるっと回して確認してみた。たしかにウインナーもクリームコロッケも入っている。これだけあって950円はやっぱり安かった。初めて訪れた僕にはもってこいなメニューだ。なにせどれを食べていいかわからないし。
クリームコロッケの横にハンバーグが沈んでるのがわかるだろうか。クリームコロッケというのが意外だった。カレーにはクリームコロッケが合うのだろうか。実際合った。じゃがいもコロッケでも良いとは思うけれど、クリームコロッケも良い。ハンバーグはなんでもないハンバーグだ。あってもなくても良い感じ。
金沢カレーのもうひとつの特徴としてはルーの粘度が高くてドロドロなところ。シチューぽいサラサラとした本格カレーなんてお呼びじゃないとばかりの日本カレーの到達点のひとつが金沢カレーなのかもしれない。実際なんでそんなに粘度があるのかよくわからないけれどこれはこれで美味さがあるし、サラサラカレーが嫌いな人には最高のカレーとも言えるのではないだろうか。そんな満塁ホームランカレーをもりもり食っていたら、正午が近くなってお客が続々と入ってきた。注文すらせず「いつものカレー」が出て来るレベルの常連もいる。僕以外はみんな普段から利用している地元民ぽい。そらそうか。
満塁ホームランカレーの満足度はかなりのものだった。死ぬほど量が多いということもないけれど、このあと色々と楽しみたいというような、旅行の一発目に食べるメニューとしてはあり得ない。昼前からこれは食べないかも。でも食べてみたかったのだからしょうがない。
レジにいたのは店主っぽいおっちゃんでフレンドリーで感じの良い人だった。長年にわたって親しまれている店なのも納得だ。膨れたお腹をかかえつつブラブラと歩くことにした。
カレーの市民アルバからまっすぐ行くと、小松駅前のアーケードに突入する。営業しているお店はほとんどなくて、シャッター街ぽいけれど、商店街が死んでいるのか、たまたま休みがかぶっている曜日に来てしまったのか、時間帯なのか、そのへんはわからない。ちなみに水曜日だった。こういう商店街って、日曜日はあんまりやってない事も多いけれど、平日の特定の曜日に休みが集中することもけっこうあるので油断できない。
商店街を抜けると誰かの記念館的なものがあって、その後ろにお城っぽい建物が見えたので気になってしまった。もしや古臭いラブホテルかなと思ったのだ。
近づいて見てみれば地域のおもちゃ屋だった。今どきこんなおもちゃ屋が生き残っているのが珍しい。けれどけれど定休日で閉まっていた。
どうも看板の雰囲気的には、五月人形とか雛人形とかを中心に扱っている会社のようだ。端午の節句を大事にする家は意外と多いのか。現代でどういう需要があるのか正確なところは知らんけれど、たしかにそんなものを扱っている会社はまだまだ多い。それにしても、五月人形とか全力で和のものをメインに据えた商売をしているくせに、西洋風のお城のデザインにしてしまうセンスにびっくりする。どういうつもりやねんと。ちょっと中のラインナップを見てみたかった気持ちが少しあった。
この老舗のおもちゃ屋が水曜定休日。商店街水曜日定休日説も、あながち的外れとはいえないのかもなと思ったり思わなかったりした。
駅に戻ってきて、併設している店なんかを見てたら、小松うどんの店を発見する。
そういえば小松には、小松うどんという、どことなく讃岐うどんチックなうどんがあるようだ。以前に金沢のスーパーで購入して、家で茹でて食べた事を思い出した。なるほど、これが小松うどんを扱っている店かと、しばらく眺めていたが、さきほどのカレーがおもすぎてとても食べる気になれなかった。満塁ホームランカレーが地味に効いてきている。
店の外にもテーブルや椅子が設置してあって、うどんを食べるだけの離れのスペースまであった。どことなく本場の讃岐うどんの店を彷彿とさせる営業形態だ。調べてみると小松うどんは松尾芭蕉が食べて有名になったくらいの歴史の古さがあるようだ。してみると、讃岐うどんの方が後発ともいえるかも。本当のことはいまさらわからないのだけれど。
なんにせよ小松うどんを店で食べてみたかった。食感とか出汁とかもどんな塩梅なのか未だよくわかっていない。スーパーで買ったのは讃岐うどんと変わらなかったので。
「旅では心残りを作れ!」というのは旅の名人による名言だが、小松市にも小松うどんという心残りが出来てしまったようだ。次は小松うどんを食べるために再訪しよう。
ちなみに上記の名言を残したのは僕だったりする。覚えておいて欲しい。
まあ、だいたい同じ味だとは思うけれど、残念なことにステンレスの皿も、キャベツの千切りも、トンカツもハンバーグもウインナーも付いてこないので、自分で用意しなければならない。素カレーライスでは意味がないとまでは言わないけれど、なんか残念に思ってしまうのが金沢カレー。最低でもカツカレーかウインナーカレーにしたい。
とか思ってたら、なんとお皿までセットになった商品があった。恐るべし。