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Amazon「オリジナル」ドラマが『殺人犯はそこにいる』を無断で利用した件について

Amazonプライム会員なのは前に書いたが、Amazonプライムビデオで配信が始まった「Amazonオリジナルドラマ」 の『チェイス 第1章』というやつ。全く気にもとめて無かったんだけど、清水記者の『殺人犯はそこにいる』に内容がそっくりだという事で僕の方にも教えてくれる人がいた。そしたら本の版元の新潮社から以下のような声明が出されていた。

www.shinchosha.co.jp

Amazonプライム・ビデオにて、2017年12月22日より「チェイス」なるドラマが配信されています。そのドラマに関して多くの皆様から、弊社より刊行している清水潔氏の著作『殺人犯はそこにいる 隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件』が原作なのではないか、との問い合わせを頂いておりますが、弊社および清水氏はドラマ「チェイス」の制作について何ら関知いたしておりません。
なお『殺人犯はそこにいる』の映像化につきましては、書籍発売後から数多くのお話を頂戴しておりますが、事件の被害者であるご遺族の感情に配慮し、弊社および清水氏は慎重を期して検討を進めております。

大事なことは、著者である清水記者および新潮社は、Amazonのドラマについては完全にノータッチだということ。そして実在の事件であるので、ドラマ化などの話には慎重に対応しているということだ。映像化の許可をほいほい出したことはないと。

 

僕も気になったので件のドラマを、配信されているぶんまですべて見てみた。

 

ドラマの筋書きはこんな感じだ。衛星放送チャンネルのディレクターの本田翼が、27年前の連続幼女殺人事件に、近隣で同じ手口の未解決な失踪事件がいくつかあることに気がつく。それで大谷亮平演じるフリーのジャーナリストに協力を仰いで、事件の真相にせまっていく。立件された事件では、幼稚園バスの運転手が容疑者として逮捕されていて、主人公たちが調査したところ警察の捜査は実に杜撰で、DNA鑑定以外の根拠が薄弱であることがわかってくる。連続幼女殺人事件を同一の犯人による犯行とするならば、彼の冤罪をはらす必要性がある。そのためにはDNA鑑定の絶対性を覆さなければならないが……。

 

実際の足利事件の概要をご存知の方はすぐにわかるが、幼稚園バスの運転手は完全に菅家さんだ。ロリコンビデオを収集していると警察に言われて、実際に清水記者が調べにいったところ、いわゆる巨乳ビデオとかばかりでどこにもロリコンビデオなど無かったというエピソードが『殺人犯はそこにいる』の中であったが、ドラマでも全く同じくだりがある。大谷亮平が演じているフリージャーナリストは清水記者がモデルになっている。設定とか風貌はまったく似てないがポジションとしては完全に同じである。

 

しかしあくまでもこのドラマは清水潔著『殺人犯はそこにいる/隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件』とは無関係のものだそうだ。警察によって犯人に仕立て上がれらた菅家さんは、その後DNA検査の不確実性が証明されたことによって釈放されたが、真犯人と目される通称「ルパン」はまだ逮捕されていない。そのようなデリケートな題材を、エンターテイメント志向のドラマの原案として提供するだろうか。なかなか考えにくい事だ。

 

ドラマの企画者は、実在の事件なのを良いことに、『殺人犯はそこにいる』などを参考にしつつフィクションドラマとしてでっち上げてしまったのだろう。もし『殺人犯はそこにいる』がノンフィクションではなく、創作ストーリーの小説だったら完全にアウトな案件である。それくらい展開が同じだ。

 

映画とか漫画とか小説が、実在の出来事を題材にとることはままある。こそっと題材にとるだけならともかく、「あの事件がモデルですよ!」と、あえて観客や読者にわからすような仕掛けにすらなっている場合も多い。その方がある種の煽りが利いた作品になるわけだ。題材元がセンセーショナルであればあるほど良いということになる。

 

たとえば横溝正史の『八つ墓村』なんてのはまさに日本におけるそういう作品でもっとも有名なものだろう。実際の津山三十人殺し事件を元に、探偵小説・冒険小説として書いたのが『八つ墓村』だったりする。『ダーティー・ハリー』だって、実際のソディアック事件が元になったアクション映画だ。『悪魔のいけにえ』はエド・ゲイン事件から着想を得て作った扇情的なホラー映画だ。

 

こういった作品は、元ネタの事件の関係者からすれば、とてつもなく不謹慎なものだと思う。なんせ事件を面白おかしいようにエンターテイメントにしてしまっているし、ましてやホラー映画にしたなんてのは軽薄きわまりない。中にはゾンビとか怪物とか宇宙人まで登場するようなものがある。僕らはそれらを面白半分で見たり読んだりするが、業の深いことであると時々は考える必要がある。

 

ただ、今回の『チェイス第1章』問題については、まるまるノンフィクションの『殺人犯はそこにいる』とストーリー進行(あえてそう表現する)と同じになっているのがタチの悪さとしては数段上だと感じる。成り立ちからいえば完全フィクションなのに、一見するとノンフィクションの映像化作品に見えるように作られているわけだ。これだったら、まだ銃撃戦が展開されたりゾンビとか出てきたりして荒唐無稽になっていた方が、かえって良心的なのかもしれないとさえ思った。

 

このドラマがこれからどうなっていくのか知らないけれど、法的にはアウトなのかセーフなのかもよくわからないけれど、製作者たちのモラルの無さはちょっと凄いなと思った。ものすごく好意的にみれば「警察の捜査の杜撰さ」「発表報道と調査報道の違い」「科学捜査神話の嘘」などなど、清水記者が訴えてきた要素をドラマに盛り込んだ野心作だと思える部分もあるにはあるけれど、そんな良心のわかる製作者だったらちゃんと許可とってやるわなと思った。

 

そういえば少し前に、酒鬼薔薇聖斗事件の犯人が自伝を出してお金を儲けていたが、法律に触れないとしても、ああいうのとあんまり変わらない気がする。(ちなみにアメリカのニューヨーク州ではサムの息子法といって、犯罪者が犯罪本などを書いて利益を得た場合は没収されるという法律がある)

 

いちおう『殺人犯はそこにいる』は、漫画版というのは発表されている。(もちろん公式で!)

VS.―北関東連続幼女誘拐・殺人事件の真実 (ヤングジャンプ愛蔵版)

VS.―北関東連続幼女誘拐・殺人事件の真実 (ヤングジャンプ愛蔵版)

 

 

問題のドラマはこちらのやつだ。繰り返すが清水記者はノータッチ。 

amazon-chase.jp

 

ちょっとでも興味を持ったら読んで欲しい。ドラマよりもよほど為になる。

殺人犯はそこにいる (新潮文庫 し 53-2)

殺人犯はそこにいる (新潮文庫 し 53-2)

 
桶川ストーカー殺人事件―遺言 (新潮文庫)

桶川ストーカー殺人事件―遺言 (新潮文庫)

 

 

八つ墓村』なんかも、べらぼうに面白い小説だけど、関係者が読んだらたまらん部分もあるんやろなとちょっと考えてしまった。それにしても津山三十人殺しとか、あまりにも多くの物語の題材になりすぎて収拾がつかない。こちらも麻痺してしまうくらいだ。映画版なんてのは不謹慎の極みだった。名作ではあるけれど。

八つ墓村 (角川文庫)

八つ墓村 (角川文庫)

 
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