ドカベン像を見たあとは、とんかつ太郎のタレかつ丼を食べようじゃないかとお店に行ってみた。タレかつ丼とは、このお店が考案したメニューで、あまりにうまいので新潟中に広まったとされる郷土料理。むかしに新潟に来た時にも紹介されたのだけど、残念ながらお店が閉まっていた。今回はどうだろうかと来てみれば開いていたので十数年ぶりリベンジである。
混んでるかな?と思ったがそうでもなかった。店外で待ってるっぽい男は単に店の前でスマホいじってるだけのおじだった。なんだ紛らわしい!
入ってみるとカウンターだけのお店。こだわりの深そうな店主がテキパキとまわしていた。とりあえずメニューを検分する。結構いろいろあった。
ご覧の通りのとんかつ屋さんなのだが、カツ丼のコーナーを見てびっくり。基本のカツ丼が、カツ5枚入りになっていた。特製カツ丼は7枚入り。どんな大柄メニューやねん!?その下が4枚カツ丼というのも謎だ。
3枚入りのミニカツ丼くらいが、尋常のカツ丼くらいのサイズに思える。お値段もまあまあ普通。たとえば似たような雰囲気の、福井のヨーロッパ軒のソースカツ丼は、このミニサイズと同じくらいかと思う。カツ3枚ですし……。値段も近い……。
むちゃくちゃ悩んだ。どう考えてもミニカツ丼は、この店では妥協しまくったメニューなのだ。あんまり食べれないよ〜って人向けの。僕はフードファイター気質は無いし、ラーメン二郎みたいなお店でマシマシとかするような奴ではないが、基本のサイズが5枚入りだというなら5枚で受けて立ちたい気持ちがある。たまたま新潟に居合わせて、ドカベン像見学から同行していたヤム氏と顔を見合わせる。う〜む。
次の瞬間、2人ともミニカツ丼を注文していた。食べきれないという不安ではない。ここで5枚入りカツ丼とか食べてしまうと、飲みに行く元気とかは無くなってしまうんじゃないかと危惧したのだ。苦渋の決断だった。
ヤムさんにビールを奢ってもらう。中瓶だった。金属のタンブラーがいかす。
三枚入りのミニカツ丼到着。ミニとはいえ十分なサイズのカツだった。予想通りヨーロッパ軒の普通のカツ丼とそうは変わらない。そしてキャベツなんか乗ってなくて、ご飯にダイレクトにタレの染み込んだカツがどかどか積まれてるスタイルも同じ。キメの細かな衣も同じ。びっくりするほど見た目が近い。ソースカツ丼系になるとこうなるのか?でもやっぱり普通のざく切りのトンカツスタイルのソースカツ丼も多いので、ヨーロッパ軒的な積み上げスタイルはそんな主流じゃないと思う。
で、食べてみて驚いた。タレかつって言うだけあって当然ソース味とはぜんぜん違う。甘い。ばかうけとか、おにぎりせんべいを食ってるみたいな味。とんかつにここまでお菓子を感じたことはない。まちがいなくジャンク。でも上品な味付けにも感じる。タレの完成度や揚げ方など仕事が丁寧だからか。からりと揚がったカツに甘めのタレが軽やかに踊る。そして予想外なことが米が抜群に美味いことだった。
タレかつ丼というものは、いってみれば、白米のうえにタレの染みたカツを、ただ乗っけているだけのもの。そうとなればご飯の味は超重要かもしれない。この料理の味の評価の半分くらいの責任は、本来は飯の方にあってもおかしくない。けど、上のカツとかが派手なら、飯が平均点以下でも、まあいいかと許してしまいがち。実際問題として、タレかつをかじった時点で、僕の採点メーターだって100点を振り切ってしまっていたのだった。しかし店主はそういう甘えとか、妥協を許さぬ性格だったに違いない。特製タレの染み込んだジャンクなカツを、どっしり受け止めて余りある力量がこの飯にはあった。飯がキラキラ輝いて見える。お米どころ新潟とはいえ、それだけでこんな美味い飯はできまい。かなりこだわりの炊き方をしてるのではないか。たぶん……。
いやー、よかったと話しつつヤム氏と店を出たら(なんと、励み奢り!御馳走さまです!)、もう終わりの看板が出ていた。ネットなんかに書いてあるよりずっと早仕舞いのようだった。やはり店に入れたのはタッチの差だったみたいだ。なにはなくとも先に来ておいて良かった。ミニカツ丼でも結構お腹いっぱいになっていた。少食の人はこれで終わるかもしれない。
こんな店だから、きっと他の料理もぜんぶ美味いんだと思う。余裕があったら5枚の並盛りの並盛りたる所以を体感したかったし、なんだったら7枚に挑戦したい気持ちすら生まれた。他の定食も食べてみたかった。普通のトンカツもきっとこだわりのやつに違いない。まあ今度、新潟にきたら……。次こそはそんな間をおかず……と思ってる最中にコロナ渦が発生。晴天の霹靂とはまさに。