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清水潔『鉄路の果てに』は鉄道と歴史好きは読んでみて欲しい一冊!

鉄路の果てに

鉄路の果てに

  • 作者:清水潔
  • 発売日: 2020/05/21
  • メディア: Kindle版
 
桶川ストーカー殺人事件―遺言 (新潮文庫)

桶川ストーカー殺人事件―遺言 (新潮文庫)

  • 作者:潔, 清水
  • 発売日: 2004/05/28
  • メディア: 文庫
 

清水記者こと清水潔氏の代表作は『桶川ストーカー殺人事件』とされる。清水記者を知らなかった僕が初めて手にとって読んだのもこの本だった。事件もののノンフィクション『でっちあげ (新潮文庫)』をてっちゃんに勧められてAmazonで検索していた時に、何気に同種の本として画面に出てきたのがソレだった。桶川ストーカー殺人事件……。それまでにぜんぜん聞いたことのない事件だったが、何故か即注文したのを覚えている。もともと探していた方はそっちのけで。なぜそこまで惹かれたのか忘れたが、Amazonの紹介ページから何か強く伝わるところがあったのだろう。(『でっちあげも』後に読んだ。ちゃんと読んだ。)

 

本が届いて冒頭をめくったらたちまち引き込まれて一気呵成に読んでしまった。深い感銘を受けた。続けて同著者の『殺人犯はそこにいる―隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件―』も注文した。まだ文庫版は出てなくて新書サイズのしかなかった。やはり冒頭から引き込まれて気が付けば最終ページ。なんとすごい記者だと思ったもんだ。

 

すっかり味をしめてあまり興味のなかった事件ものノンフィクションにハマってしまい、しばらくその類の本を漁るようになっていた自分がいる。それまで事件もののルポルタージュと言われるようなものは、興味本位で露悪的で下世話なものというような色眼鏡があったように思う。カポーティの『冷血』を読んでいたにもかかわらずだ。本当のところカポーティの凄さもイマイチわかってなかったのだろう。(だいぶ後回しになってしまった『でっちあげ』も面白かったです。)

 

とりわけ清水潔氏のジャーナリズムは本気の事件調査だった。警察に任せておけば迷宮入り、もしくは冤罪事件になっていたかもしれない事件の解決にまで踏み込むものだった。自分からしたらジャーナリストの範疇を超えた活躍にも見えた。事件もののルポを含むジャーナリズムというものが社会で果たす役割の大きさを僕に教え込んだのは、間違いなく清水記者だといえる。それまでは、なんとなくだった。ジャーナリズムなんか「あって当たり前」という感覚だったのかもしれない。冷静に考えてそんなわけは無いのに。人間は意識して考えない項目は、とことん考えない性質があるみたいだ。眼球に飛び込む視野のすべての映像をいちいち見てないのと同じ。

 

調査報道と発表報道の違いを教えてくれたのも清水記者。調査報道とは記者が自分の手や足で調べた記事。何を当たり前にと思うかもしれないが、世の中には発表報道というのがあって、政府や企業が発表した内容をそのまま聞いてきて記事に書くだけの使いっ走りのような報道は多いのだ。そういえばと思い当たるフシのある方も多いと思う。

 

清水記者はもちろん調査報道のプロだ。警察が犯人など探そうとせずにあまつさえ被害者の名誉を毀損した『桶川ストーカー殺人事件』、真犯人を探さないどころか関係ない人を逮捕して長い間刑務所に閉じ込めていた『殺人犯はそこにいる』。いずれのケースでも持ち前の粘り強い調査能力を発揮して警察の発表を覆している。ジャーナリズムが発表報道に徹していたらと思うと、ゾッとする真実がそこにはあった。現代の名探偵がいるとしたら清水記者のような人をいうのだろうと思った。ただしこれはフィクションではないのだ。確実にそこには被害者たちがいた。「小さい声を聞け」が清水記者のモットーだった。

 

その後も清水潔氏はテレビ局に活躍の場を移し、戦前の歴史事件の調査などを手掛けてドキュメンタリーのギャラクシー賞を受賞したりしている。こちらも本になったりもしているので広く読まれて欲しい。大袈裟ではなくて日本人すべてに読まれるべきだと思う。世の中で何が正しくて、何が正しくないかを知る助けになるのは間違いない。清水記者のキャッチフレーズに「知らないことは罪だ」というのがある。日本人には知らないでは済まされないことがまだまだたくさんある。

 

そんな清水記者の待望の新刊『鉄路の果てに』が5月に発売になった。電子書籍での取り扱いもすぐ始まったので購入。この本の内容はというと、取り壊しを待つだけの一軒の家を訪れるところから始まる。ここは清水記者の生家だった。懐かしい思い出の詰まった家に独りお別れを言いにきたのだ。団らんの日々に思いを馳せる。

 

「当たり前と思っていた日常とは、とてももろい。」

 

勝手に胸が苦しくなった。そういえば僕にも育った家があった。家族の団欒などがあった思い出の家はとっくの昔に取り壊されたはず。親の借金のカタに土地をとられてしまい諸々の思い出は問答無用になくなってしまった。実にあっけないものだった。あれよあれよと一家も雲散霧消。清水記者の年齢よりもずっとはやくに実家というものや帰るべき場所なんかは消滅していたことになる。そうなのだ。日常なんかは実にもろい。人生だって、記憶だって、簡単に消えて無くなる。事故や事件に巻き込まれて亡くなった人たちも、まさか自分の日常がそんなあっけないものだとは考えない。またしても冒頭から引き込まれていっている自分がいた。

 

清水記者はカメラマンでもあり筋金入りの鉄オタでもある。そういったルーツは、亡くなったお父さんから引き継いでいったものらしい。カメラを趣味にしており、戦時中は鉄道連隊として大陸にいた父親。シベリアに抑留されて苦労して帰国したが、戦争の話はほとんどしなかったという。その父の書棚で見つけた戦争の記憶のメモと思わしきものにあった「だまされた」という謎の文字。さまざまな調査をしてきた清水記者だが、ついには自分自身のルーツを調査する旅に出てしまう。それも鉄オタの究極の夢ともいえるシベリア鉄道に乗って。

 

こう書くとまるで調査報道最終回みたいだが、清水記者信奉者としてはもちろん最終回にはなっては欲しくない。清水記者がシベリア行きの鉄路の果てに見たものが何だったのか。気になるなら読むしかない。暗く重い話のようだが、実際は軽妙に読める鉄オタ旅日記という面が強い。自分はシベリア鉄道に乗る機会などなさそうだけど何泊もする極寒の鉄道旅(どうしたってゴージャスだし)に興味津々だ。旅の仲間は『尖閣ゲーム』『潔白』で有名な小説家の青木俊先生。二人でカップ焼きそばやサントリー角瓶なんかを抱え込んでシベリア鉄道に乗り込む。そしていく先々で鉄道と歴史のつながりを知っていく。そして現代と過去との長距離列車のレールのような、長い長い繋がりが鮮明に浮き上がっていく仕組みになっている。過去を知れば現代がわかるし、現代を知れば過去もわかっていく。欠損したピースを埋める作業が大好きな歴史好きにはたまらない。

 

あとなんといっても1067mmと1435mmの問題。ご存知のとおり日本の鉄道ではそれぞれ狭軌と標準軌と呼ばれているレール幅の規格だ。ところがシベリア鉄道は1520mmという世界でも特殊な規格。そこにも戦略的な意味があったりする。そういうのを知るだけでも面白い。関西人は標準軌の鉄道によく乗っているが、JRの在来線は1067mmの狭軌である。狭軌の残念さはよく論じられるが、JR在来線の車窓が素晴らしい理由としては山深い秘境にもギリギリで張り巡らされた鉄道網がゆえの気もした。久しぶりに山間のJRに乗ってみたいがコロナで大阪府内に釘付けにされてしまっていた。そうこうしているうちに地方路線も徐々に姿を消していってしまう。

 

他にもロシアと日本とのかかわりとして明治時代の大津事件などが紹介されていて興味が出てしまった。ロシアのニコライ2世が皇太子の頃に日本の滋賀県で襲われて負傷した事件だ。ロシア最後の皇帝として処刑されてしまうニコライ2世が、かつて日本で襲われたなんて歴史は知らなかった。これは後の戦争を知る上でも重要な事件になっているわりには知名度が低い気がする。自分が無知なだけ?

 

無知なのは仕方ないと吉村昭『ニコライ遭難』も購入して軽く勉強した。これもさすが吉村昭といった面白い本だった。ニコライ襲撃に関わった人たちの数奇な運命。革命や国家の方針、戦争に振り回される人々。また、検察の独立性といった問題もこの時点で立ち上がっている。いろんな意味で2020年に読むべき本だという気もする。これも『鉄路の果てに』を読んだおかげか。

ニコライ遭難

ニコライ遭難

  • 作者:吉村昭
  • 発売日: 2013/06/13
  • メディア: Kindle版
 

 

『鉄路のはてに』で残念なのは結構すぐに読み終わってしまうところ。二泊三日のシベリア旅行はあっという間だった。読みやすいといえば読みやすいのでおすすめしやすいが、僕自身はもうちょっと清水記者と青木先生の旅を長く読んでいたかったのだった。清水記者と青木先生の鉄道旅は、百閒先生とヒマラヤ山系にも負けない名コンビ。黒パンなんかの考察も面白かった。黒パンが食べたくなって大阪で買えるお店を探してみた。だいたいドイツパンだった。ロシアパンといえば山崎パンの例のやつが出てきてしまう。今はなき山パンの大ロシアは好きだ。鉄路だけに話が脱線してしまった。

 

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butao.hatenadiary.com

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鉄路の果てに

 

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