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都知事選の前に全員に『女帝 小池百合子』を読んで欲しかった

話題の『女帝 小池百合子』を読んだ。たいへん面白かった。小池百合子のことは全く知らなくて、「嘘ばっかりついて政治家として信用ならんやつだな!」くらいにしか思ってなかったのだが、生い立ちや政治家になるまでの軌跡を丹念に追いかけている本書はありがたかった。小池百合子が竹村健一のアシスタントしてた記憶なんか微塵も残ってないし、ワールドビジネスサテライトなんか見てもないから、彼女がそもそもどこから出てきたとかも僕は知らなかったのだ。僕みたいな人ほど読んだ方が良いかもしれない。そして小池百合子というのが、人生の端々でついてきた嘘とかハッタリについても取材を通してよくまとめてあって勉強になる。

 

それにしてもこの本の始まり方はすごい。すごすぎるので少しだけ引用しようと思う。

 

その人はひどく怯え、絶対に自分の名が特定されないようにしてくれと、何度も私に訴えた。同じような言葉をこれまでに、いったいどれだけ耳にしたことだろう。

 ある日を境に電話に出てくれなくなってしまった人もいれば、家族が出て来て、「二度と近づいてくれるな」と追い払われたこともあった。皆、「彼女を語ること」を極度に恐れているのだ。

 

まるで怪談の出だしである。もしくは尼崎連続殺人事件の角田美代子とかそういうサイコパス 的な猟奇事件を思わせる。あるいは清水潔氏の『桶川ストーカー殺人事件』の中に出てくる情報提供者の怯えた様子を思い出してしまった。小池百合子とはそこまで怪物的な存在だというのだろうか。おかげでグイグイと引き付けられてしまった。掴みのうまさに負けた形だ。

 

結論からいうと、小池百合子は怪物かどうかは知らないが「女帝」と揶揄されるだけのたいした人物だった。僕はある種の人たちをいわゆる「フカし」と言って忌避しているのだが、小池百合子というのはまさに典型的な「ソレ」だった。カイロ大を卒業したと言ってのけたり、エジプト語の初歩しか勉強してないのに要人の通訳を買って出たりなどのハートの強さも含めて、今の地位を築いてきた軌跡を辿ると、大したレベルにあると認めざるを得ない。彼女の父親の立ち回りも綴られているが、彼もなかなかのものだったが実績としては娘には及ばなかったようだ。それは単に環境や運による結果の差なのか、フカしの実力の差なのかは判別がし難いが、ある種の親子二代の歪な事業の成果ともいえるのかもしれない。

 

ここでいう「フカし」というのがどういう種類の人類かというと、簡単に言えば自分の有利になるならば嘘をつくのに躊躇のない人たちのことだ。嘘の天才と言っても良い。別のタイプの嘘の天才として、小説家や漫画家やお笑い芸人みたいな創作で大成するような人たちがいる。この人たちは嘘の才能を限定された状況でしか発揮しないが(もちろんそうでない人もいるが)、フカしとはあらゆる場面でいかんなく嘘の才能を発揮する人のことだ。多くの人は小説家や漫才師が面白いことを言っても間に受けたりしない。それは創作という枠組みの中で「いまから嘘つきますよー」とスタートの合図をかけられてるから。しかし日常の何気ない場面での嘘には滅法弱い性質がある。だから舞台を降りたあとの漫才師の言葉は、うっかり信用してしまうかもしれない。

 

「まさかそんなところで嘘をつくか?」と誰もが警戒しないところでつく嘘こそフカしの醍醐味。「そんなすぐバレるような嘘はつかんだろ」と思うような大胆不敵な嘘も、だからこそ騙しやすいともいえる。というか、フカしと呼ばれる人たちは365日が嘘の連続なので、本人は意識しないでも嘘がいくらでもつける。その場をリードしさえすればいいから、とりあえず大きいことを言ってカマしておく。あと先のことなんかあまり考えない。そもそもあと先のことを考えたら嘘なんかつけない。後でその嘘を突っ込まれたら、補強するための第二の嘘をつけば良いだけだ。非常に演繹的な行為だともいえる。また、過去の話をするときは帰納法を駆使して世界観に深みを出してくる。これら、実は小説などストーリーを創作するときのテクニックだが、彼らはリアルタイム小説家みたいなもんだ。フカしの特徴として、ちょっとした話がいちいち面白いというのがある。そりゃ日々創作活動に勤しんでるんだから、面白エピソードなんかいくらでも盛り込める。リアルタイム小説家みたいな人がこの世にいることをあまり認識してない人は「あそこまで詳細に語ったエピソードが嘘なんてことはないだろう」と油断してしまう。たまたま隣に居合わせた痩せっぽっちの男性が、ジークンドーの達人だったりしても見抜けないのと同じで(余談だが、格闘家の何人かは、性別も含めて本当に見た目では分からないので、無闇に喧嘩をするのはやめた方が良い)、自分と何気に話している人が、世界ランカー級の嘘つきみだとは普通は想定してないからアッサリとやられてしまう。小池都知事の最近の後先考えずに注目だけひくような言動の数々を振り返ってみても、世界ランキングとまでは言えるかどうかは分からないにしても、年季の入った熟練の技にみえる。

 

彼女の言動でよく指摘される「意味の分からないカタカナ用語を展開しては注目を引き、その説明をする前に次のカタカナ用語を繰り出して謎の連続で引き付けるテクニック」など、危機や謎の連発で次への興味を引っ張り続ける週刊連載漫画や連続ドラマなんかと同じじゃないかと思う。同じフカしでも維新の松井市長の下手くそで話題性のない嘘と比べて欲しい。松井なんかとは完成度も深みもぜんぜん違う。モラルが無ければ嘘がつけるというもんでもなく、そこはやはり才能の優劣はある。

 

長々とフカし気質について説明してしまったが、世の中にはそんな人がいっぱいいるのはしょうがない。嘘を極めたような人がいても別にそれはそれで良いと思う。問題はそういうフカしが政治家になり知事などという要職におさまってしまうことにある。そこについても本書はするどく経緯を辿ってる。そこに見えてくるのは、本人の技量や能力などより、見栄えやそこに付随するストーリー性(芦屋のお嬢さん出身であるとか、若い女性がカイロ大学に留学して日本人初の首席で卒業とか、ミニスカートを履いた女性議員とか)ばかりに注目して囃し立てるマスコミ各社。そこに問題点を見出せない未成熟な日本社会があった。マスコミはつまんない真実よりも、面白いストーリーに飢えているのだ。そんなストーリーを提供し続ける人物は持て囃されやすい。フカしには実に生きやすい世界だとも言える。女性をマスコットとしてしか見ない圧倒的な男性社会がゆえに目立っていった面も見逃せない。あらゆる条件が彼女のような人物に有利に働いたようにも見えてしまう。こんな世の中であるから、別に彼女じゃなくても、似たような人物はちやほやされて、どっかで政治家におさまってたりするのだろう。そういえば橋下とかもそうだった。

 

まあ、そんなわけで、築地の移転問題もほったらかし、五輪優先でコロナの対処も立ち遅れて、それからも訳のわからんカタカナ連発してるだけの彼女が今も知事に居座ってしまっているわけだ。そしてマスコミは未だに真実の報道をしようともしない。一説には五輪利権のうえで小池百合子を都知事に据え付けておいた方が良いから、テレビ局などは選挙の不利になるような報道には消極的になっているとも聞く。大阪で起きていることと全く同じ構造の問題が東京でも展開しているということだ。やはりテレビが影響力を発揮しているうちはどうにもならないのだろうか。都知事選の結果に注目が集まるが、野党連合が推す宇都宮氏や、山本太郎はちょっと厳しいのかと思うと悲しくなるのでこの記事を書いて少しでも応援しようと思った。自分は残念ながら東京都民ではないので何も出来ない。もっとも、自分が住んでいる大阪府知事選も何とも出来なかったが。維新なんか入れたこともないのに。

 

最後に、この本への苦言も実は多少あって、百合子の心境やら、家族との確執やら、ストーリーを作りすぎな部分がけっこうあるのだ。そんな内面のことは分からんやろとつっこまずにはいられない。その方がドラマチックになって理解しやすいと思ったのかもしれないが、それって百合子がやってる「面白ストーリーを作って興味を引く」という手法と変わらないから。百合子批判の本としてはちょっと皮肉なところがあるのが玉に瑕か。ノンフィクションなら事実だけを淡々と拾って欲しかったという気持ちがある。あと舛添要一との恋愛話も、時期的にありえないと本人から反論されていた。

40年前、私に学歴を「詐称」した小池都知事 小池都知事の嘘とパフォーマンスが東京都を没落させる(1/4) | JBpress(Japan Business Press)

 

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