少し前だけど、かなり絶望的な気分になれる本を読んでいた。
『アメリカ黒人の歴史』。実にストレートなタイトルである。本の内容もストレートなもので、アメリカ黒人の歴史をつらつらと記述している。アメリカにおける黒人の歴史を語っていくと、それはすなわち奴隷と差別の歴史になってしまう。
アメリカ黒人の歴史は1619年から始まる。1619年というと日本では江戸時代だ。関ヶ原の合戦で勇名を馳せた島津義弘が亡くなった年であるけどそんなことはこの際には関係がない。
意外なことだけど、1619年に最初にアメリカに上陸した黒人たちは、いわゆる奴隷という身分でもなかった。年季奉公人という立場だった。
ようするに「4~7年くらい働いたら身分を認めて開放します」という契約で連れてこられた労働者だったのだ。そして黒人と一緒に白人の年季奉公人もたくさん連れてこられていた。
しかし次第に年季奉公人たちは自分たちに課せられた不利な契約に対する不平不満が募るようになってくる。そして白人も黒人も結託して反乱やストライキなども行われるようになった。そこで地主などは、扱いづらい白人の奉公人を雇うのをやめて、コストが安くコントロールしやすい黒人労働者のほうに労働力をシフトさせていくようになる。
そして黒人の奉公人の数はどんどんどんどん増加していった。
ほとんどの奉公人が黒人に置き換わったときに「彼らを人間扱いするのをやめよう」という風潮が完成することになる。ヨーロッパの植民地では奴隷が当たり前だった時代なので当然の流れではあるかもしれなかったが、ついに法律によって奴隷という存在が決定的に制定されてしまったのだ。法律では奴隷は所有物でしかないので、雇い主が煮ても焼いても自由にしてよかった。
恐ろしい話だ。
もちろん白人のなかにも、奴隷制度を悪と考えていた人は少なからずいた。しかし奴隷を必要としていた資本家はたくさんいた。社会的に奴隷が認められている以上は、奴隷制度に反対する意見というのは(いくつかの運動の成果はあったにせよ)基本的には封殺されるしかなかった。
で、ご存知、南北戦争のときのリンカーンによる有名な奴隷解放宣言。
1863年のことだ。
1863年!!!
ちょっとまって欲しい。黒人が最初にアメリカに連れてこられて不利な労働を強いられはじめたのは1619年だ。その頃から黒人労働者は苦痛に耐えて生きてきたのだ。
なんと、250年もの歳月が経って、やっと開放される見込みがたったのだ。とんでもないことだ。
それからもアメリカ黒人の苦難は続く。
差別の嵐である。
なにせ、奴隷としては開放されたものの、法律は依然として人種差別を否定しなかった。
これに抵抗しようとする有色人種は袋叩きにあった。
有名なキング牧師が登場して、法律の上での人種差別を撤廃することに成功するのが1964年だ。
1964年!!!
奴隷解放宣言から100年くらい経っている!!!!
最初の黒人労働者が不利な労働を強いられた時代から考えて欲しい。
350年ちかくの歳月が経っているのだ。
それから時は流れて50年ほど経過した現代。アメリカ黒人はどうなったか。
白人警察に不当に射殺されたりして暴動が起きている!!!!!!
もう400年近くもアメリカでの黒人の扱いは低いままだということになる。
安い労働力として搾取することに端を発するアメリカ黒人の不幸がまだ解消されていない。
単純に時の経過を追うだけでも、暗い気持ちにさせられるアメリカ黒人歴史本である。
こんな本を読んだ後に、ふと日本において考えると、非常に酷い待遇で契約させられている派遣労働者や低賃金労働が開放されるのはいつなのかと考えてしまう。
歴史を考えていくと、もしかして100年後、200年後ということも。
そして酷さのピークはまだ来ていないという可能性も。
日本人の低賃金労働者では間に合わないから外国から労働力を輸入しようという考え方。完全に黒人奴隷の歴史と同じであることも追記しておこう。
いろいろ絶望的な気分になってしまった。
低賃金労働はよくない!是正されるべき!と考えている日本人も多いし、そういう運動もあるにはあるのだけど、現状を見るとあまり盛り上がっているようには見えないのがなんとも……。
日本にキング牧師って出現するんですかね?