以前スパイスカレーの謎について書いた。
あれからもことあるごとにスパイスカレーとは何ぞやと考えながら歩いている。
そうしたら下のような看板にぶち当たった。
スパイツカレー!!!!
スパイスカレーもわかってないのに、もっとわからないカレーが出てきた。
正確にいうと、こっちのほうがわからないぶんだけ、わかりやすいかもしれない。
スパイスカレーは「カレーにスパイスが入ってるのは当然だろ」とツッコミが入るのがややこしい。しかし「スパイツ」と言われたら、意味不明すぎて「なるほど…スパイツ入りのやつね…」と従うしか無い単語の腕力がある。
(ブログのコメントで、払いの方向からいって「スパイシ」じゃね?とつっこまれました。たしかにスパイシかも…)
回り込んでみると「肉カレー千葉屋」という看板。
そういえばこのあたり(西天満・南森町近辺である)にはこんなカレー店があった気がする。結構人気だと聞いた。けれど行こうという動機は永遠に得られていなかった。
その頃はまだスパイスカレーにもスパイツカレーにも頭を悩ませて無かったというのも勿論ある。今回はいい機会だからと入ってみることにした。
店内は短いカウンターとテーブル3つだけというこじんまりしたもの。
すでにカウンターは埋まっており、テーブルがひとつだけ開いていた。
一人だがテーブルに通された。
メニューを見るに、店名として肉カレーと名乗っているだけあって、通常のカレーはもちろんあるが、牛肉または豚肉を乗せたようなカレーが看板メニューだというのが伺える。それに加えてカツカレーという第三の選択肢があるようだ。ほかは細かいトッピングが用意されているが、初心者のうちは無視しても良さそうに思えた。
こういう店でトッピングのない通常カレーを注文するのも芸がないのである。立ち食いうどんにおいて、「素うどん」を注文するような味気なさを感じる。もしくは「飾り気のないルーとご飯のコンビネーションで店主の真髄を図る」的な圧迫面接行為。店主に対して「嫌味な客印象」を与えてしまうかもしれない。いずれにせよ、今日より明日を見据えた市民としては、初見の店でのモヒカンのごとき振る舞いは避けた方が良い。
しかし問題は牛肉か豚肉か。豚バラ好きとしては豚肉のせカレーを頼んでみようかと思うけれど身体が硬直してしまう。これが、ポークカレーorビーフカレーだったら文句なくポークだったのだが、スパイツカレーにおいては、肉はトッピングとなっている。どういうことやと。
カレーの上にデカイ肉塊が乗ってる様を思い浮かべてしまう。正直いって、カレーに肉の塊がトッピングされていても、あんまりそそられる気がしない。僕の中ではカレーを食べたいメンタルと、お肉を食べたいメンタルは一致しないのだ。もともとからあんまり具のないカレーが好きですし…。でもトッピングは好き。というかカツカレーなんかが好きだったりする。
最初からカツカレーが好きだといえよ!
というわけで素直に、第三の選択肢のカツカレーを注文する。と「大盛りは無料ですがどうします?」と訊かれてしまった。「してください」と反射的に答えてしまう。そんなに腹は減ってないのに。大盛りオプションがあると「自分試し」みたいに挑戦してしまう癖はいつか身を滅ぼす気がする。
それからけっこう待つ。周りをみると配膳は遅いようだ。カレー屋というのは提供までの速さが売りな店が多いジャンル。だが、時折、すごいスローな店もある。なんでなのかはよくわからない。肉とか、カツとか、その都度で調理してる可能性もあるが(米子のとんきんなんてハンバーグから作る!)、厨房の方がよく見えない席だったので、理由はわからない。
やっと運ばれてきたカツカレー。サイドに千切りキャベツが付いてくるスタイル。
この千切りキャベツスタイルのカツカレー。誰が始めたか知らないけれど、関東に多いような気がする。けど金沢カレーもキャベツスタイルなのでよくわからない。とにかくキャベツを盛っているカツカレーは好きな店が多いので期待が高まってしまった。
ご飯はサフランライスだった。 大盛りといってもぱっと見はそんな多くは無さそう。大盛りにしてもらって正解だったかなとか考えつつ食べる。
ルーを最初に口に運んだ時、まず感じたのは甘み。これは…大阪のインディアンカレーに代表される「甘みを感じた後に辛味がくるタイプ」のカレーかもしれんと思う。
やはり予感的中で、あとからジワジワと辛味がせまってくる。やたら甘ったるいくせに後口は辛くてヒーヒーいう。これが大阪的カレーの醍醐味(大阪は全部そうじゃないけどね!)。
何を隠そう、僕はこの手のインディアンカレー系のカレーが大の苦手なのだ。
うわ~、失敗したと思った。大盛りのサフラン飯がぜんぜんすすまない。でも大の苦手といえど、完全に嫌いというほどじゃない。3年に1回くらいは「今日なら美味いと思うかも?」と挑戦してみるくらいの興味はある。だから今回の千葉家訪問を、数年に一度のインディアンカレーだと思えば…。
しかしここでさらなる衝撃が襲いくる。
ここのカレー、甘くて辛いだけだったら、インディアンカレーと同じ程度なんだけど、オリジナルの試みとしてか、山椒がたっぷりとふりかけてある!!!
これがまたパンチが効きすぎてたまらん!!!
僕は辛味に関してはけっこう強いのだけど(ただしインディアンカレーみたいな甘くて辛いやつは苦手)山椒のパンチの効いた辛さには死を覚えるタイプ。
かといって山椒が嫌いなわけじゃないし、昨今の流行りの花椒系の辛味のものとかも結構食べる。でも濃いところにぶち当たるとそのたびにヒーヒーと脳内でのたうち回ったりもする。
そしてここのカレーの山椒。けっこう濃厚。なんども死を覚悟するくらいのパンチが脳内に突き抜ける。
それプラス、苦手な甘くて辛いルー。
「あ、大盛りで」などと気軽に答えてしまった自分が恨めしい。が、あのときはどんなカレーかわからなかったのだから過去の自分を責めるのはお門違いだ。自分は何も悪くない。
こんなときにカツはけっこう頼りになる存在だ。足場のないカレー沼地の飛び石的存在。カツを頼りになんとか食べ進むが、それでもときおり山椒と唐辛子がミックスされた辛さにのたうちまわってしまう。こうなってくるとせっかくのカツの味も何もわかんなくなってしまう。
正直いまこれを書きながらも、舌先に山椒のしびれと唐辛子の辛さが再現されてきている。キーボードを叩きながら汗まみれになってくるという変な状態だ。
そんなこんなでなんとか食べきった。カレー屋での「あ、大盛りで」が、こんなに高く付くとは思わなかった。ラーメン二郎みたいな店だったら、大盛りなんて絶対に頼まないし…。
代金を支払って外に出る。肉カレー千葉家は何一つ悪いことはしていない。甘くて辛くて山椒の効いたカレーを出しただけなのだから…。よく流行っているし…。
スパイツカレーの真髄は何一つわからなかったし、スパイスカレーが何なのかは今回も悟れなかった。あ、ここはスパイシカレーだったか。