米子みたいな寂れた地方タウンにいくと、「良い感じの飲み屋」が見つからなくて困る事がある。都会でいうところの古くからの大衆酒場みたいなのは、地方に遠征するとあんまり無いのが実情だ。あっても、ものすごく少ない。だいたいがスナックとか、売りのよくわからないぱっとしない外観の居酒屋。そういうのが好きなら、それはそれで問題は無いのだけど。
僕はスナック的なお店で飲むのはあまり好きではない。売りのよくわからないぱっとしない外観の居酒屋もなかなか難しい。中にはいい店があるのも知ってるが、なんせ外観がぱっとしないだけに良さが伝わってこない。どういうのがぱっとしないのか、言葉で説明するのも難しいのだが「看板やのれんなどがありきたり。凡庸」「外から中が見えない」って部分か。うまくいえないのだけど。要するに「他と見分けがつかない」みたいな感じ。
逆にいえば、「周囲の店とはオーラの違う凄味のある門構え」「一線を画する外観」「外から中の活気のある様子、または特殊な雰囲気があるとかが見える」などのどれかの要素があれば、僕的にいえばぱっとした店であろうし、気になって入ってしまうに違いない、という事だ。
前回の記事で書いた軽食喫茶ハマなんかは、まさにこれらの要素のうちの2つを満たしているといえる。
地方の街に遠征した際にそういう「わかりやすい」居酒屋にめぐりあわないこともままある。めぼしい店が見当たらず、凡庸な店ばかりに思えてしまう。もちろんこちらのレーダーの感度の低さとか注意力不足にも原因があるのだろうが、自分の発想の貧困さによるところも大だったりする。
米子で連れていって貰ったお店ラーメン処田川角盤町店は、まさにそんな自分の発想の貧困さを思い知らされた1軒だったので紹介したい。
屋台の味ラーメン処田川。そっけない看板が出てるだけ。どこにでもありそうなラーメン屋。米子一の飲み屋街である角盤町・朝日町と呼ばれるエリアに存在する店だけど、自分の感覚だったら完全にスルーしちゃってたはずだ。
飲みに行こうかといってこんなラーメン屋に入らないし、ラーメンが食べたいと思ってたとしてさえも入らないと思われる。周辺にほとんど店が無かったら入るかもしれないが、店の数だけは多いエリアなだけに余計に選択肢としては立ち上がってこない。「外観が凡庸すぎて埋没している」というパターン。
米子アドバイザーのB氏と一緒に店内に入る。長いカウンターがあってテーブル席がいくつかあるというよくあるレイアウトのラーメン屋。ただし、カウンターに、寿司屋のようなネタケースがあるのに驚く。ラーメン屋ではあまり見ない。そしてメニューを確認して驚く。
や、焼き鳥!?
砂ずり、つくね、レバー!?それぞれ3本セット??
そんでシシャモ!?
餃子はわかる。鶏の唐揚や豚肉キムチ盛合せも。しかしラーメン屋で焼き鳥は想定外。ラーメンに焼き鳥をつけて食べようなんてなかなか思わない。思っても良いけど、やってる人は見たことがない。とすると、焼き鳥とビール!なんて注文を想定してるのかと思われる。
たしかにラーメン屋にはおつまみ系のメニューというカテゴリーがありがちだ。しかしそういうのって餃子とか唐揚げのように中華系で揃えてくるか、チャーシュー盛合せだのキムチだの漬物だの冷奴だのと、手間のかからないものが定番だ。
焼き鳥って片手間にやるようなメニューじゃない。「焼き鳥で一杯やってほしい!」という強い動機がないとムリかと思う。もしくは「ラーメンと焼き鳥を一緒に食って欲しい!」という気持ちか。ラーメンに合う焼き鳥…いや焼き鳥に合うラーメンというのもあるのかもしれない。そうでなくたって飲んだ〆にラーメンというのはスムーズな進行につながる。
ネタケースに目をやると、そこには焼き鳥しか入っていなかった。そもそもラーメン屋にネタケースがあること自体が変なんだけど、そのネタケースに入っているのが焼き鳥に統一されているのはもっとすごい。「うちはあくまでも焼き鳥屋なんだ!」というラーメン店主の強い主張を感じる。
そうはいっても餃子もなかなかの旨さ。これは酒が進む。
焼き鳥の王様といえば純けいだが、それは秋吉とか一部の店に限ったことなので、一般的な焼き鳥の王様はネギマといえよう。ネギマがなかなか美味い。ラーメン屋でネギマが美味いってどういうことなのと思うが「ラーメンの看板を掲げた焼き鳥屋の意地」みたいなものを感じる。実際にうまかった。
米子に来て食道楽を重ねたせいで(米子は胃袋がいくらあっても足りない土地)あんまり腹が減ってなかったので、焼き鳥と餃子をつまみに飲んだだけで、肝心のラーメンの味はどうかわからなかったが、まわりを見てもラーメンを食っている人はいなかった。あくまでも焼き鳥と酒の店。気が向けばラーメン。ここまで焼き鳥にこだわっているラーメン店だから、ラーメンも美味いんじゃないかという気もするが食べてないので何ともいえない。
ここまで紹介してきてわかって貰えたのではないだろうか。そう、地方都市におけるラーメン屋は、実は飲み屋を兼ねている可能性が高いという話をしたかったのだ。食堂ののれんを掲げている店にしても飲み屋と化している場合がある。遅い時間までやっていたら、飲み屋機能も有しているとみて間違いがない(と思って入ったら、まさかの酒類を一切置いてないという事もゼロではないが…)
つまり、地方都市に行ったら、あからさまな飲み屋とか寿司屋とか鍋屋とか焼肉屋だけではなく、ラーメン屋、お好み焼き屋、食堂、喫茶店、といったところも疑ってみるべきであって、そのなかでもラーメン屋はとくに怪しいとされている。地方で一杯やる店に困ったら覚えておいて欲しい。今まで景色に埋もれて見えてこなかったいろいろの店が立ち上がってくる可能性がある。
ちなみに東京や大阪といった大都会でもそういう店はあるので探してみよう。
ラーメン処田川角盤町店で焼き鳥を堪能した帰りに米子のシャッター街を歩いた。朝日町あたりで飲んだあとは、いつもだいたいこう。なぜなら米子駅近くに泊まるから。